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松山地方裁判所 昭和51年(行ウ)4号 判決

愛媛県松山市二番町一丁目八番地二

原告

川原田忠逸

右訴訟代理人弁護士

木原主計

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

瀬戸山三男

右指定代理人

下元敏晴

森池裕一郎

山本喬久

今井寿二郎

木村克

中井充

平岡矗

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の被告に対する別表(二)の一、三、五及び六の(C)欄記載の各物品税及び各無申告加算税債務の存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別表(二)の一ないし八掲記の松山税務署長外七税務署長は原告に対し、昭和四四年一〇月九日(ただし、伊予三島税務署長のみ、同月一四日)、物品税法三条二項に基づき、それぞれ別表(二)の一ないし八の(A)欄記載のとおり課税標準及び税額を決定する処分並びに無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件課税処分」ということがある。)をした。その後、右八税務署長は、それぞれ同表の一ないし八の(B)欄記載のとおり減額更正処分を行つた結果、同表の一、三、五及び六の(C)欄記載の課税標準及び税額を決定する処分並びに無申告加算税の賦課決定処分が残存することになつた。

2  しかし、本件課税処分は、次の理由により無効である。

(一) 前記各税務署長は、原告が、昭和四〇年七月六日から昭和四一年五月二〇日までの間に、別表(一)の部品仕入明細(A)(B)(C)欄記載のとおり、技研工業こと久野典男又は奥村遊機株式会社(以下「奥村遊機」という。)から、分離式ぱちんこ機(玉をはじいて遊戯する部分の表部品と機械部分の裏部品に分離でき、両者を金具で結合して使用するもの)の表部品を、ユーキ工業こと久野典男から、裏部品を仕入れ、これを同表の販売明細(D)欄記載のとおり四国地区で販売し、販売先のぱんこ店で表裏部品を組立て結合したとし、右のようにいまだ使用又は消費されていない部品を仕入れてこれを組立て物品税課税物品を完成した場合、物品税法三条二項にいう「製造場」及び「製造者」とは、組立て行為が行われた場所、当該組立て行為をした者をいうとし、本件課税処分を行つた。(もつとも、前記各税務署長は、そのうち、技研工業製作の表部品とユーキ工業製作の裏部品を組合わせて販売した行為については、その後、いずれも製作者が同一人の久野典男であること、これらは原告の注文により直接販売先のぱちんこ店に送付されたが、その前にいつたん久野典男が表裏部品を組み合わせ調整した後分離して出荷され、久野典男の責任でぱちんこ店で組み立て結合されたことを理由に、この関係の分離式ぱちんこ機の製造者は久野典男であるとして、前記のとおり減額更正処分をした。)

(二) しかしながら、奥村遊機製作の表部品と久野典男製作の裏部品を組み合わせて販売した行為は、原告が久野典男の代理店としてしたものである。すなわち、奥村遊機製作の表部品は、久野典男が同社に注文したもので、この表部品と久野典男製作の裏部品を組み合せたものを原告が久野典男の代理店としてぱちんこ店に販売したものである。表裏部品の組み立て結合も、久野典男のもとでなされた後販売先のぱちんこ店に送付されるか、各販売先で久野典男の責任で同人の従業員によつてなされるかのいずれかであつた。

以上のとおり、右の分離式ぱちんこ機の表裏部品の組み立て販売者は、久野典男であつて、原告は、久野典男の代理店として右販売に関与し、販売手数料を得ていたにすぎない。

(三) しかるに、本件課税処分は、このような原告を、分離式ぱちんこ機の表裏部品の組立て販売者と誤認してなされたものであり、課税要件を欠く課税処分である。しかも、その暇疵は、重大かつ明白であるから、本件課税処分は、無効である。

ちなみに、久野典男は、名古屋中税務署に対し、昭和四二年ころ、本件課税処分にかかる物品税を含む分離式ぱちんこ機の物品税の修正申告をし、昭和四五年までに完納している。

3  よつて、原告は、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因事実のうち、1及び2の(一)を認めるが、その余を否認する。

第三証拠

一  原告

1  証人久野典男、原告本人

2  乙第一、第二号証の成立は知らない。第五ないし第一二号証の成立を否認する。ただし、第五ないし第一二号証の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは認める。第一三、第一四号証の成立は知らない。第一五ないし第一七号証の成立を否認する。第三八ないし第五七号証及び第五八号証の二の成立は知らない。その余の乙号各証の成立を認める。

二  被告

1  乙第一ないし第五七号証、第五八号証の一、二

2  証人久野典男、同渡辺清、同清水利雄、同藤本亀夫

理由

一  請求原因1の事実(本件課税処分の存在)及び同2(一)の事実(本件課税処分の理由並びに減額更正処分存在及びその理由)については、当事者間に争いがない。

二  原告主張の無効事由について判断する。

原告は、奥村遊機製作の表部品と久野典男製作の裏部品を組み合わせて販売した行為は、原告が久野典男の代理店としてしたもので、奥村遊機製作の表部品は、久野典男が同社に注文し、これと久野典男製作の裏部品を組み合せたものを原告が久野典男の代理店としてぱちんこ店に販売し、販売手数料を得ていたにすぎないと主張し、原告本人は、右主張に符合する供述をし、証人久野典男は、右主張にそう供述をする。しかし、成立に争いのない乙第五八号証の一により真正に成立したものと認められる同号証の二のうちには、奥村遊機は、四国地区では、ごく一部直接販売していたものを除き、原告を通じてぱちんこ機を販売しており、分離式ぱちんこ機の表部品は、原告から電話による注文を受けて製作したもので、原告からその代金の支払を受け、原告は、自己の計算で、右表部品のぱちんこ店への販売価格を決めて販売していた旨の記載があり、この記載に照らすと、原告本人及び証人久野典男の前記各供述は、たやすく採用することができない。(むしろ、成立に争いのない乙第四号証に前掲の乙第五八号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証、いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一三ないし第一六号証及び同第一号証、証人清水利雄の証言及びこれより真正に成立したものと認められる乙第一七号証、証人久野典男の証言の一部を総合すれば、分離式ぱちんこ機は、久野典男が昭和三四年ころから研究して開発し、昭和四〇年に発売したものであるが、奥村遊機は、そのころ久野典男の技術指導のもとに表部品の製作をするようになったこと、ぱちんこ店の中には、表部品として奥村遊機製作のものを好むものがあり、原告は、そのようなぱちんこ店から分離式ぱちんこ機の注文を受けると、表部品の製作を奥村遊機に、裏部品の製作を久野典男にそれぞれ注文し、完成した表裏各部品を直接ぱちんこ店に送付して貰つて引渡を受け、原告の責任で表裏部品の組み立て結合をし、ぱちんこ店にすえ付けたこと、もつとも、そのうち、最初に注文した二〇〇台ぐらいは、奥村遊機製作の表部品と久野典男製作の裏部品がうまく結合するかどうかの確認をするため久野典男のもとで組み立て結合された後ぱちんこ店に直送されたものがあり、また、表部品と裏部品とを結合する金具は、久野典男の責任で製作されていたので、各ぱちんこ店で表裏部品を組み立て結合する際、原告は、久野典男の従業員に来て貰い、その指導のもとに調整を行つたこともあること、以上のとおり認めることができる。)

なお、原告は、久野典男が昭和四二年ころ名古屋中税務署に本件課税処分にかかる物品税を含む分離式ぱちんこ機の物品税の修正申告をし、昭和四五年までに完納したと主張し、証人久野典男は、右主張に符合する供述をするが、この供述は、にわかに措信することができない。

他に、本件を通じ、原告が本件課税処分の無効理由として主張する事実を認めるに足りる証拠はない。

三  以上によれば、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負坦につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺貢 裁判長 裁判官 岩谷憲一 裁判官 松野勉)

別表(1)

川原田忠逸のぱちんこ機表及び裏部品の仕入及び結合販売明細表

別表(2)の1

川原田忠逸に対する決定等明細表(松山税務署長関係)

(注) 移出年月日欄( )書は課税月

別紙(2)の2

川原田忠逸に対する決定等明細表(伊予西条税務署長関係)

(注) 移出年月日欄( )書は課税月

別表(2)の3

川原田忠逸に対する決定等明細表(新居浜税務署長関係)

(注) 移出年月日欄( )書は課税月

別表(2)の4

川原田忠逸に対する決定等明細表(伊予三島税務署長関係)

(注) 移出年月日欄( )書は課税月

別表(2)の5

川原田忠逸に対する決定等明細表(宇和島税務署長関係)

(注) 移出年月日欄( )書は課税月

別表(2)の6

川原田忠逸に対する決定等明細表(八幡浜税務署長関係)

(注) 移出年月日欄( )書は課税月

別表(2)の7

川原田忠逸に対する決定等明細表(大州税務署長関係)

(注) 移出年月日欄( )書は課税月

別表(2)の8

川原田忠逸に対する決定等明細表(丸亀税務署長関係)

(注) 移出年月日欄( )書は課税月

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